涅槃図(ねはんず)を解説します
2月15日はお釈迦様の命日(旧暦)として、全国で釈尊涅槃会が厳修されます。
そして、多くの寺院ではお釈迦様の涅槃(亡くなられた)時の様子を模している「涅槃図」の軸が飾られます。
お釈迦様が入滅したことを「涅槃に入る」ということから、この絵を「涅槃図」といいます。
涅槃図を読み解くことは「死の在り方」を考えることであり、死を見つめることは今を生きる自分自身を見つめ直すことです。
お釈迦さまが何を求め、何を伝えたのか。お釈迦さま最期の旅路をご一緒にたどってみませんか?
満月
お釈迦さまの入滅の日は2月15日のため、十五夜の美しい満月が描かれています。
満月の下にいるのは、阿那律尊者(あなりつそんじゃ)です。お釈迦さまの十大弟子の一人です。お釈迦さまの説法中に居眠りをしてしまったことを恥じて、絶対に寝ない、という誓いを立てます。結果、視力を失ってしまいますが、そのことがかえって智慧の目を開くきっかけとなりました。
誰かを先導してしています。誰でしょうか?
お釈迦さまの生母、摩耶(まや)夫人です。天女たちに付き添われ、息子のもとへ向かっているところです。
摩耶夫人はお釈迦さまの生後7日目にお亡くなりになりました。摩耶夫人は、今まさに涅槃に入ろうとしているお釈迦さまに長寿の薬を与え、もっと長く多くの人にその教えを説いてほしいとの願いからやって来たのです。
長寿の薬
赤い袋は長寿の薬です。摩耶夫人がお釈迦様に向けて、薬を投げましたが、沙羅双樹(さらそうじゅ)の木に引っかかってしまい、結局間に合わなかった事を表していると言われています。
摩耶夫人が投げた薬袋を投薬といい、現在の「投薬」の語源になっているそうです。
樹に引っかかった長寿の薬をお釈迦様に届けようとした動物がいます。
ねずみです。ねずみが薬をお釈迦様に届けようとしたら、猫に邪魔されてしまいました。よって猫は涅槃図に描かれておりません。猫はこの件をきっかけに十二支から外されたとされています。
沙羅双樹(さらそうじゅ)
お釈迦さまの周りを囲んでいるのは沙羅双樹の木です。
枯れた樹はお釈迦さまが入滅されたことを人間や動物だけでなく、植物も悲しんだことを示しています。
一方、青々とした樹は、お釈迦さまが入滅されてもその教えは枯れることなく連綿と受け継がれていくことを示しています。
葬儀の際、祭壇に飾られる四華花(しかばな)は、この沙羅双樹の故事が元になっています。
お釈迦さまに触れる老女
唯一お釈迦さまのお体に触れている人物がいます。諸説ありますが、お釈迦さまが生前、ついに「悟り」に達するきっかけとなったスジャータです。
お釈迦様は、悟りを開こうと6年にも渡り難行を続けました。やせ細ったお釈迦様は通りかかった村で、ある村娘から「ミルクで作ったお粥」を食べさせてもらい、やっと体力が回復し、菩提樹の下で坐禅し、ついに悟りに達して仏陀(ブッタ)になりました。この時、お釈迦様に「お粥」を差し出した村娘の名前が「スジャータ」です。
コーヒーに入れるフレッシュで有名な「スジャータめいらく(株)」の社名は、村娘「スジャータ」が由来です。
お釈迦様は北向きで横たわっております。今日でも亡くなった方を北枕で安置するのはこの故事からきています。多くの人々が悲しみ、動物、植物までもが悲しんでおります。生態系をも揺るがす程の悲しみだったことがわかります。
しかし、お釈迦様の顔は安らかです。
生きとし生けるものをやさしく見守って日々を送り、生きとし生けるものにやさしく見守られてこの世を去る。心やすらかに満たされて生き、心やすらかに満たされて死ぬ。それが理想の生き方、理想の亡くなり方だと思います。
涅槃図は、理想の死、やすらかな死を描いているのです。
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