涅槃図|お釈迦様を囲む最後の人々
2月中は普段、お寺で公開されることがない涅槃図が公開されるため、貴重な仏教美術に親しむことのできる機会でもあります。
涅槃図には様々な登場人物がいます。
赤い肌の2人は金剛力士です。
日本最大の木彫像、奈良の東大寺南大門の金剛力士像が有名です。
寺門の左右に置かれ、
左が口を開けているのが「阿形(あぎょう)」像。
右が口を閉じているのが「吽形(うんぎょう)」像。
お寺の門番で、悪を追い払う強いイメージの金剛力士ですが、
お釈迦様の死を嘆くあまり、もう足に力が入らないのか、座り込んで体全体で悔しそうに地団駄を踏んでいるように見えます。
お釈迦様の近くにいる白い肌の僧(ほかの僧はみんな肌が茶色)は地蔵菩薩(じぞうぼさつ)。
お地蔵様、おじぞうさんです。
右手に錫杖(しゃくじょう)を握る形式が多く見られるようです。
お釈迦様から託されたお地蔵様は、どこにでもいて、わたしたち衆生を助けてくれる存在です。
もしも不幸にして、将来、地獄の方へ滞在しなければならないようなことになったら、
あちらでわたしたちを助けてくれるのもお地蔵様です。
お釈迦様の側に、高貴な菩薩様がいます。
左が観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)、右が勢至菩薩(せいしぼさつ)です。
観世音菩薩はいわゆるあの有名な、観音様です。
宝冠(ほうかん)にご注目ください。
左の観音様の宝冠には阿弥陀如来(あみだにょらい)の化仏が確認できます。
右の大勢至菩薩(せいしぼさつ)の宝冠は水瓶が確認できます。
車輪のような形をした光輝く宝輪(ほうりん)を持ち、手が沢山ある人がいます。
如意輪観音(にょいりんかんのん)です。
観音菩薩の変化身(へんげしん)の一つであり、六観音の1つに数えられます。
宝輪は煩悩を打ち砕くとされ天界道に迷う人々を救うとされますが、6本の手で六道すべてに救いの手を差し伸べるともいわれています。
法輪の他にも三鈷杵(さんこしょ)等持っているようです。煩悩を打ち破ってくれる法具です。
とても有難い観音様です。
鳥なんだか、人間なんだか。。。
小さいですが気になります。
迦陵頻伽(かりょうびんが)は、極楽浄土に住む鳥として、人頭鳥身で美声の鳥と言われています。
恐らく、お釈迦様の最後にふさわしい鳥だったのかと思います。
気を失って倒れている人(左)とそれを心配し介護する人(右)がいます。
どちらもお釈迦様の優秀な弟子で左が阿難(あなん)右が阿那律(あなりつ)です。
阿難(あなん)は25年の長きにわたり、つねにお釈迦様の側近で世話をし、説法を聞きました。
お釈迦様の教えをだれよりも多く学んだ弟子で「多門第一」と称せられました。
阿難を介護した阿那律(あなりつ)は実は天界でお釈迦様の母、マヤ夫人を先導している人と同一人物です。
「お釈迦様の前では決して眠らない」と誓い、結果失明してしまいましたが、かわりに天眼(知恵の眼)を得たので「天眼第一」と称せられました。
お釈迦様には沢山の弟子がおりましたが、中でも主要な10人の弟子を十大弟子 (じゅうだいでし)といいます。
阿難(あなん)も阿那律(あなりつ)もこの十大弟子に入ります。
白い布で涙を拭う人、やはりお釈迦様の十大弟子で羅睺羅(らごら)といいます。
お釈迦様の実の子どもです。
羅睺羅(らごら)は戒律を守り善い行いをしていても、なかなか悟りを開くことができなかったそうです。
もともと王族の生まれで育ちも良く、出家してからもお釈迦様の子供であるため、多くの人に敬まれたため、どこか自惚れ心があり、悟りが妨げられていたようです。
やがて悟りを開き、「密行第一」と言われるようになります。
「密行」というのは、人が見ていないところでも戒律を護り続けるということです。
私たち人間は、人が見ているところでは、行いを正しますが、一人になると欲のままに人前ではやらないことをしてしまいます。
因果応報で、人が見ていようが見ていまいが、まいた種に応じた結果を現します。
それがよく分かっていた羅睺羅(らごら)は、他人の前ではもちろん、他人が見ていないところでもしっかりと行いを正していた、ということです。
お釈迦様は実の子である羅睺羅(らごら)へ最後の言葉を伝えます。
「父のために今までよくやった。そして私も子のためにすべき事を終えた。
諸行無常である。そんな無常の世の中で変わらない幸せを求めることが私の教えである」
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